日本の棚田百選(平成11年7月)





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●蕨野の棚田(相知町)


基 礎 諸 元 平均勾配 団地面積
1/4 40 ha



維持・保全・利活用状況
本集落の棚田では、灌漑用水を谷水だけではなく、八幡岳山頂周辺の2カ所の 溜め池にも依存し稲作が営まれている。溜め池から用水は、八幡岳北側斜面に沿っていくつもの谷筋を横断している開渠「横溝」を使って導水し、それぞれの谷毎に分水されている。毎年5月下旬に集落関係者総出で「横溝掃除」をし、溜め池の水通 しを行い、以降9月まで管理人(水番)を置いて、溜め池斜樋栓・横溝・分水地点の管理を行っている。
また、本集落の生産組合や集落内中堅有志で組織する「ふるさと会」では、耕作放棄地を借り受けた「蕨野花園」に、春は「レンゲ」、夏は「ひまわり」等を栽培し、耕作放棄地の解消に努めるとともに、地元農協と連携した棚田農作業体験ツアー(田植え・稲刈り)を実施し、都市部住民との交流を図っている。
さらに、本地区では、「ふるさと会」を中心に、先進地への優良事例研修や保全のための基盤整備が積極的に導入されており、棚田の保全や地域資源として有効活用に向けて取り組まれている。

推薦項目  景観     伝統文化の維持保全
推薦理由 景観:「石積の雄大さ」石積法面が山の斜面 に沿って立ち上がっていく景観は、まさにピラミッドと形容される。底辺に位 置する田から最上段の田の石積法面を見ると、「霞がかりの山城」を望むようであり、立ち迫るような立体感は、見るものを圧倒してやまない。

伝統文化の維持保全:「伝統的石積技術」本集落の起源は、この地に人が住みついた戦国時代といわれ、棚田開墾は江戸時代末期から盛んとなり、明治初期に旧溜が築造され、新溜が昭和19年に築造されると、灌漑用水の確保と相俟って棚田地域は、急速に拡大していった。これらのことは石と格闘しながら「村を拓いた」苦労の歴史として集落代々に伝わっている。棚田法面 は、開墾時に出土した玄武岩と砂岩の円礫で堅固に石積みされており、石の大きさは、大きいもので表面 (おもてづら)縦横1.0m以上で、石積の高さは3~8mが多く、中には10mに達するものもある。石積技法は2種類みられ、①全面 が野面石積石垣(曲線的法畦畔)、②隅を有効に活用するため算木積み石垣(直線的法畦畔)で、棚田はこの技法を組み合わせ、標高150m~420mまでの斜面 に、約1,050枚が造成されている。
また、本地区では、棚田造成に際して、地下部に石造暗渠を巡らし、これにより用水の有効活用や迅速な排水がなされている。石造暗渠は、天井・両側が一枚岩で底部は小石を敷き詰めてあり、大きいものでは、1m四方となっている。

棚 田 の 概 況 枚 数 1050 枚 水 源 河川(渓流含む) 溜め池
事業導入 法面構造 石積
開発起源 近世(戦国~江戸時代)
営 農 の 状 況 対象農家数 48   戸 10a当収量 563 kg/10a
戸当り営農規模 0.8 ha/戸        20 枚/戸
高付加価値農業 カントリーエレベーターを建設中で、棚田枚を商品化検討中。
特記事項の有無 本地区では、山斜面の開墾や石積に多くの人手を必要とするため、共同作業体「手間講」が生まれている。この共同性は、集落の強い結びつきとして、現在にも継承されており、本地区の棚田の維持・保全・利活用の原動力になっているものと思われる.



●大浦の棚田(肥前町)


基 礎 諸 元 平均勾配 団地面積
1/5 35.4 ha



維持・保全・利活用状況
大浦棚田は、小規模な集落である大浦岡、大浦浜、満越の3集落にわたってお り、傾斜のある土地を有効に活用するために狭いながらも長年にわたる農家の工夫から作り出された、まさに、自然と人の合作である。機械耕作が不適な地形のため、「畦切り」「畦塗り」を始め田植えから稲刈りまで、人力に頼ることも多いが、小規模農家も多いこともあり、勤勉な営農を続けている。また、各生産組合、水利組合により4月の「出さらえ」と呼ばれる水通 し作業や夏場の農道草払いが行われ、各水源水利の管理は、水番と呼ばれる管理人によりなされている。本地区は、地滑りの被害や用水不足に悩まされてきたが、各種地滑り対策工事で棚田の保全がなされるとともに、土地改良事業により溜め池まで用水が導水され、営農安定が図られている。肥前町や大浦地域では、棚田の維持保全のための基盤整備を一層推進するとともに、草花の播種による美化や景観に調和した石垣築造等を考慮しながら、この棚田景観のグリーンツーリズム等への活用を検討されている。

推薦項目  景観
推薦理由 景観:「棚田形状の美しさ」その昔、弘法大師がこの地の美しさに筆を投げたと伝えられている玄海国定公園「いろは島」を背景にしながら、眼下に約1000枚の壮大な棚田を見渡すことができる。毎年、4月下旬頃の代かき直後の水田の眺めがもっとも素晴らしく、その波状的な形状の美しさとともに天候と日射によっては幻想的な情景を醸し出し、多くのカメラマンが撮影に訪れている。

棚 田 の 概 況 枚 数 1096 枚 水 源 河川(渓流含む)ため池
事業導入 法面構造 石積
開発起源 中世(平安~室町)
営 農 の 状 況 対象農家数 62   戸 10a当収量 582 kg/10a
戸当り営農規模 0.57 ha/戸        18 枚/戸
高付加価値農業 特になし。
特記事項の有無 なし。



●浜野浦の棚田(玄海町)


基 礎 諸 元 平均勾配 団地面積
1/7 11.5 ha



維持・保全・利活用状況
集落による農道・水路の整備清掃をおこない、特に雨期前には、危険個所水路の清掃等水田の維持管理を行っている。また、若年農業従事者の減少や緊急生産調整推進対策が推進される中において、転作田の耕起・水張りを行い国土環境の保全と美しい景観の維持に努めている。
本地区においては、地域住民と玄海町とが一体となり、棚田の維持・保全に努め、棚田景観を地域資源として有効に活用していくさらなる取り組みが検討されている。

推薦項目  景観
推薦理由 景観:「棚田形状の美しさ」本地区では、玄界灘に面した海岸から駆け上がる階段のように、斜面 を幾重にも連なる棚田が覆い、時刻や天候によって自然の景色を映し出されている。特に、4月下旬から5月中旬の代かき、田植え後、夕日がオレンジ色に染まり海と水田と畦道が描く造形美は、実に素晴らしい。また、本地区は、「平成5年度美しい日本のむら景観コンテスト(農林水産省主催)」において、むらづくり対策推進本部長賞を受賞した景勝地で、他県、他市町村からのカメラマニアの絶好のキャンバスとなっている。

棚 田 の 概 況 枚 数 283 枚 水 源 ため池
事業導入 法面構造 石積
開発起源 近世(戦国~江戸時代)
営 農 の 状 況 対象農家数 15   戸 10a当収量 450 kg/10a
戸当り営農規模 0.77 ha/戸        18~19 枚/戸
高付加価値農業 特になし。
特記事項の有無 なし。



●岳の棚田(西有田町)


基 礎 諸 元 平均勾配 団地面積
1/5 28.6 ha



維持・保全・利活用状況
岳地区の棚田は、上流域森林からの流出水と、それらを蓄えた溜め池を水源と しており、棚田に関連した溜め池、水路、農道は、区民によって共同管理(溝普請、道普請)されている。平成8年に開催した第2回全国棚田サミットを契機に地域の若手グループにより岳信太郎棚田会が発足し、荒廃化しつつある棚田の状況に対する理解を、都市住民に呼びかけることとした。このため、岳信太郎棚田会では、都会では味わえない農作業(田植え、稲刈り)や自然に親しむことにより交流と理解を深めてもらおうと、棚田オーナー制を展開している。また、現在実施中である中山間地域総合整備事業において、岳地区に棚田を活用した体験農園を整備する計画であるが、これらの施設の利活用、維持管理は棚田会をはじめ岳集落が取り組む予定である。

推薦項目  景観     伝統文化の維持保全
推薦理由 景観:「周辺地域を含んだ農村景観の美しさ」当地区の上部には国見有料道路(国道498号伊万里~佐世保)が通 過しており、眼下に望む風情は、棚田形状の美しさと点在する集落とが一体となり、まさしく農村の原風景を醸し出している。

伝統文化の維持保全:「石積み及び祭礼神事」本地区の棚田は、平均勾配1/5という傾斜地での棚田であり、法面 には、堅固な石積みが施されている。石積み技法は、布築、谷築、その他幾通 りかの方法が用いられており、現在も地域に継承されている。また、本地区には、棚田の渇水時の雨乞い祈願の神事として発生した山谷浮谷(起源;江戸時代1650年頃)が継承されており、現在では、毎年の夏と秋祭りに、集落の持ち回りで、氏神様へ奉納されている。さらに五穀豊穣を感謝するお日待ち祭り(毎年11月4日夜から15日朝まで)が当番農家で催され、集落共同体としての意識が強く引き継がれている。

棚 田 の 概 況 枚 数 570 枚 水 源 ため池
事業導入 法面構造 石積
開発起源 近世(戦国~江戸時代)
営 農 の 状 況 対象農家数 35  戸 10a当収量 420 kg/10a
戸当り営農規模 0.8 ha/戸        16 枚/戸
高付加価値農業 生活様式が入り込む恐れのない良質な水資源の活用と牛糞堆肥やレンゲ栽培による緑肥の施用により安全な高 品質な特色ある米(棚田米)の生産を図っている。
特記事項の有無 なし。



●江里山の棚田(小城町)


基 礎 諸 元 平均勾配 団地面積
1/5 16.4 ha



維持・保全・利活用状況
江里山地区の棚田は、天山山系を源とした自然流水を水源とし、山間の河川に 沿って曲線を描いて下方に広がる棚田である。本地区では、中山間総合整備事業により農道、農村公園等を整備し、定住環境の向上を図るとともに、棚田内を巡る農道や水路については、集落で共同管理し棚田の維持保全に努めている。また、平成4年4月1日に農林水産省主催の「農村景観百選」に選定されたのを契機として、「棚田と彼岸花の里づくり」を目指したむらづくりが集落主導によって進められ、彼岸花をより一層きれいに咲かせるための集落一斉の畦畔草刈り等を実施し、「彼岸花祭り(9月23日)」を開催するまでに至っている。昨年の「彼岸花祭り」には、約3,000人の人手があり、一方で、婦人会を中心とした加工グループにより伝統的「こんにゃく」の制作販売が始まるなど地域の活性化が十分に図られている。今後とも、この成功を糧として、棚田を地域資源とした集落コミュニティのさらなる発展が期待される。

推薦項目  景観
推薦理由 景観:「周辺地域を含んだ農村景観の美しさ」石積みの棚田、法面 や畦畔に咲き誇る彼岸花と集落とが一体となった景観は、日本の山里景観の原風景ともいうべき味わいをみせ、これまでも「農村景観百選」「美しい日本の村景観コンテスト」などに選定されてている。彼岸花の時期には、「彼岸花まつり」以外の日にも多くの来訪者があり、早朝から写 真家がアングルを求め殺到している。」

棚 田 の 概 況 枚 数 592 枚 水 源 河川(渓流含む)
事業導入 法面構造 石積
開発起源 中世(平安~室町)
営 農 の 状 況 対象農家数 27   戸 10a当収量 476 kg/10a
戸当り営農規模 0.61 ha/戸        22 枚/戸
高付加価値農業 特になし。
特記事項の有無 なし。


全6件 01 / 02